苦恋症候群
ふわ、と鼻腔をくすぐった、甘い香り。

驚いたように顔を上げた彼女と、至近距離で目が合う。



「っあ、ご、ごめん」

「いえ、」



無意識に掴んでいた肩から手を離すと同時に、森下さんもパッと俺から距離をとった。

何ともいえない空気が、ふたりの間に一瞬流れる。

けれど俺はぐっとこぶしを握りしめ、先ほどしようとしたように踵を返す。



「……それじゃ、お疲れさまです」

「え、あ……三木くん、屋上行かないの?」

「今日は、もういいです。失礼します」



言って早々に、俺はその場所を後にした。

審査部のある5階までたどり着いたところで、ふと持っているビニール袋に視線を落とす。


中に入っているのは、缶コーヒーとミント味のタブレットだけだ。

あの栄養ドリンクは今朝、自分のために買ったものだったけれど……あそこで偶然森下さんと会って渡せて、よかったと思う。

自分のせいで風邪をひかれては、さすがに寝覚めが悪い。あれで少しは、回復してくれればいいけど。
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