苦恋症候群
『っあ、ご、ごめん』



あんなに至近距離で、森下さんの顔を見たのは……酒に酔った彼女を家に泊めた、あの朝以来だった。

ふたりの間で、完全になかったことにはなっているが。あのとき俺は、自分の軽率な考えで、失恋した直後の彼女を抱こうとしたのだ。

無理やりくちびるを奪って、衣服を乱して、その肌に触れて。

……そんな簡単に、触れていいようなひとでは、なかったのに。


だけど彼女は予想外にも、そんな俺に説教をかました。

きっと、あのときああやって彼女がちゃんと拒否してくれてなかったら、今のような関係ではいられなかったんだと思う。

だから、今は──あのときの自分の行動を、後悔すらしていた。



『俺に、そんな資格ないですから』



あの夜ジュンさんのお店でそう漏らしてしまったのは、たぶん、気が緩んでしまってたんだと思う。

目の前に、俺みたいなただの後輩に対してもまっすぐで……ありのままの自分を、さらけ出してる人がいたから。

きっとそれが、少しだけうつってしまったのだ。
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