苦恋症候群
だけどあのとき俺はすぐにハッとして、話を逸らすように、追及されないように、彼女にお酒を勧め続けた。

その結果、森下さんは自力で家に帰れないくらいベロンベロンのふにゃふにゃな状態になってしまったわけだけど。


審査部のドアノブに手をかけながら、心の中のもやもやを吐き出すように深く息をつく。


──気のせいだ。

嫌な上司のせいで不快感しかなかった胸の中が、森下さんと少し話しただけで平常心に戻れたなんて。

きっと、ただの、気のせい。


あのひとはいつも一生懸命で、いい意味で予想を裏切ってくれるから、おもしろくて。

だから、群れることが苦手なはずの自分にしては、屋上での時間は、わりと心地良くて。


ただ、それだけな、はずで。



『なんでだろ、もう……と、止まったと思ってたのに……っ』


『いろいろごめんね三木くん。ありがとう』



……まだ。

あのひととの距離を、はかりかねている。
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