苦恋症候群


◆ ◆ ◆


「ごめんね三木くん、巻き込んじゃって」



自分の左隣をちらりと見上げながら、申し訳なく私はつぶやいた。

視線を向けられている本人はというと後ろの電柱に背中を預け、相変わらず無気力な様子で行き交う人々を眺めている。



「いえ、どうせ予定もなかったですし。……深田さんにはお世話になりましたから」

「麻智、なんて言って三木くんのこと誘ったの?」

「まあ……普通に、です」



……麻智、一体なんて言ったんだろう。

なんか三木くんとこうやって話してるだけで、彼と麻智の上下関係が目に見えてわかるようだ。

一応、ふたりは同い年のはずだけど。まあ、勤続年数は麻智のが上だから、そこはあまり関係ないのか。

そういうところ、三木くんはわりとちゃんとしてそうだし。


三木くんはグリーンのVネックTシャツに黒っぽいジーンズという、私からすると見慣れないラフな格好だ。

そんな一見普通の服装でも、さっきからまわりを通る女の子たちにチラチラと熱い視線を向けられている。


うーん、さすがイケメン。

こっそり心の中でそう思っていたら、後ろから誰かにポンと肩を叩かれた。



「ごめんさとり、お待たせー」

「麻智! と、文哉さん。こんばんはー」

「こんばんは」



振り向いた先に立っていたのは、私と同じように浴衣姿の麻智と、こちらもラフな格好をしている文哉くんだ。

麻智は次いで、三木くんへと目を向ける。
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