苦恋症候群
「三木くんも、こんばんは。ごめんねいきなりー」

「こんばんは。いえ、大丈夫です」

「三木さん、お久しぶりですね。武藤です」

「お久しぶりです武藤さん。永田支店ではお世話になりました」



挨拶を交わす男性陣を見ながら、こっそり心の中で納得。

ああそっか。文哉さんは永田支店の顧客だから、三木くんとも顔見知りなんだ。

前列に私と麻智、その後ろに三木くんと文哉さんが並び、会場へ向かって歩き出す。



「いやー、ようやく着れたね、浴衣」

「あは、そうだね。麻智、去年あの後着る機会なかったの?」

「ん。お祭りって人多いからやっぱ動きやすい服着ちゃうしさー」

「ふふ、私も」



麻智が着ている浴衣は、クリーム色の生地に赤っぽいピンク色の朝顔や、麻の葉などが描かれているものだ。

帯の色は薄紫色に近い落ち着いたピンクで、髪型はいつもの黒髪ボブのまま。流した前髪をみつあみにして、ラインストーンでできた赤い花のピンでとめている。


対する私は、白地に紺瑠璃色のクレマチスの花と、薄紫色の蝶々が描かれている浴衣。

淡いミントグリーンの作り帯をしめて、アップにした髪には白い花の飾りをつけた。



「さとりちゃんも、和服美人だ。寒色系の色似合うね」

「あ、ありがとう文哉さん」



ニコニコと後ろから話しかけてくれた文哉さんを軽く振り返りながら、お礼を口にする。


……さとりちゃん『も』ってことは、すでに麻智はベタ褒め済なんだな。

彼のことだ。聞いてるだけで恥ずかしくなってしまうような、甘ったるい褒め言葉責めにしたに違いない。
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