苦恋症候群
「迅は……さっきの男の人は、真柴支店長と不倫関係になる少し前まで、付き合ってた人で……友達の、友達のさらに友達?って感じの人たちが集まってた合コンに、人数合わせに無理やり連れられていったとき、知り合ったの」



思い出すのは、初対面での迅の笑顔。

最初から、彼の強気な態度は変わらない。



「そのときの私には、いつも自由に振舞ってる彼が特別に見えたんだろうね。……出会ったその日に、家遠くて帰るのが面倒だっていうからウチに泊まらせて、そのまま付き合うことになって。なんかもう、ほとんど同棲みたいな感じになって……結局、しばらくしたら、あの人は他に女作って出てったけど」



自分が履いてる下駄の、桃色の鼻緒に触れる。

会社の後輩相手に何しゃべってるんだろうって思うけど、話を続けた。



「馬鹿だよねぇ。今だったら、自分がただいいように利用されてただけだって、わかるのに」

「……森下さん」

「ほんと私、三木くんが前言ったように、人に褒められたもんじゃない恋愛しかしてないの。もうこれ、ビョーキみたい」



膝を抱えたまま力なく私が笑ったら、目の前の彼のスニーカーが1歩こちらに近づいたのがわかった。

何気なく、顔を上げる。すると思いがけなく真剣な表情で見下ろされていたと知って、そのまま硬直してしまった。
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