苦恋症候群
また彼が、慌てたようにしゃがみ込む。

あはは、と私は珍しく焦り顔の彼に笑ってみせた。



「謝らないでよ、三木くんのせいじゃないって。けどごめん、私今日は先に帰るね」

「帰るって……森下さん、待ち合わせ場所にはどうやって来たんですか」

「電車だよ。まあ駅まで歩くのはちょっとキツいから、タクシー拾えそうなところまで行ってタクシーで帰ろうかな」

「送ります」



すぐさまそう言って、彼は立ち上がる。

今度は私が、慌てて首を振る番だ。



「い、いいよぉ……三木くんは、麻智たちと一緒に花火見てなって」

「それこそ遠慮します。俺も帰りますから」

「や、でも、歩くの時間かかっちゃいそうだし」

「……わかりました」



降ってきたその言葉に、こっそり安心したのもつかの間。

彼は私の目の前で、おもむろに背中を向けてしゃがんだ。

まさか、と思い浮かんだ考えに、今度はさっきよりも激しく首を振る。
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