苦恋症候群
「──けどさ」



内装も外観もかわいらしい私たち行きつけのカフェを出ながら、そう言って麻智は私を流し見た。



「さとり、前付き合ってた彼氏と別れたのって、いつだっけ?」

「……1年半前」

「ああ、あのヒモ男ね」

「ヒモってゆーな」



思わず拗ねた表情で、くちびるを尖らせる。

あの人、一応バイトはしてたし。……あらゆることにだらしなかったけど。私のアパートに寄生してたけど。

ただ現金を渡すことだけは断固拒否していただけ、当時の私はまともな判断ができていたと思う。

曲がりなりにも金融機関職員が恋人にたかられてるなんて、シャレにならない。



「ええっと、ヒモ男の前は二股かけられてて、学生のときは友達の彼氏とったんだっけ?」

「ちがーう! 友達と同じ人をすきになって結局私が付き合えることになったんだけど、その友達があることないことまわりに吹き込んだおかげでカレとも気まずくなっちゃって、結局別れることになったの!」



半分笑いながら訊ねてきた麻智の言葉が不本意で、思わず噛みつく。

あれは忘れもしない、大学2年の夏のこと。

そのせいでしばらく、針のむしろのような空間に身を投じることになってしまったのだ。

しばらくしたら全部そのコのデタラメだったって周囲がわかってくれて、環境は落ち着いたからよかったけど。
< 18 / 355 >

この作品をシェア

pagetop