苦恋症候群
みんなでヤスの家か。楽しみかも。


無意識にまた口もとが緩むのを感じながら、私はまた三木くんに視線を戻した。



「ごめんね三木くん、目の前で」

「……いえ。別に、気にしませんから」



そう言って三木くんは、自分の腕時計に目を落とす。

そのままの流れで、彼はもたれていた手すりから身体を起こした。



「俺、そろそろ戻ります。もう昼休み終わるんで」

「あ……そっか。じゃあ、私も戻ろうかな」

「じゃ、お先に」



やはり淡々と言い置いて、彼はさっさと屋上を後にする。

表情は普段通りながらも、その、どこかいつもにも増して感情のこもっていない言葉に。私は思わず口をつぐんで、スーツ姿の背中をぼんやり見つめてしまった。


……やっぱり三木くん、調子悪いんだろうな。

だいじょうぶ、かな。


そうは思うけど、自分もすぐに仕事へと戻らなければいけないことを思い出す。

ヒトの心配する前に、私もしっかりしなきゃ。

気持ちを切り替えるように背筋を伸ばし、深呼吸してからその場を去った。
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