苦恋症候群


◆ ◆ ◆


「うわっ」

「わわっ、だいじょうぶですか?」



社内の廊下を歩いていたら、前方から歩いてきていた男性がすれ違い様、持っていた書類の山を崩してしまった。

床に散らばってしまったそれらを、私もしゃがんで一緒になって拾い集める。



「いやーごめんね、森下さん」

「いいえー。私もよくやりますし」

「あれ、そうなの?」



そう言って小さく笑ったのは、審査部の田辺課長だ。

柔和な顔つきの、いかにも『やさしいおじさん』って感じの人。部署が違う私にも、いつも気さくに声をかけてくれる。


ようやく全部拾い終わって立ち上がった田辺課長に倣い、私も腰を上げた。



「審査部、相変わらず忙しそうですねぇ。お疲れさまです」



この人たちがほぼ毎日遅くまで残業していることを知っているので、何気なくねぎらいの言葉をかける。

それを聞いて、課長は困ったように笑いながらうなずいた。
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