苦恋症候群
「まあ、3年も続けてればさすがに慣れたかな。でも今日は三木くんが病欠だから、ことさら忙しくて」 



さらりと言われたその台詞に、思わず目をまたたかせる。



「え……三木くん、今日お休みなんですか?」

「うん、今朝連絡があってねー。昨日からずっと高熱が下がらないんだって。ま、時期的にインフルエンザではないだろうけど」

「そう……なんですね」

「三木くんって地元がこのへんじゃないらしいから、家族の方にもすぐ来てもらえないみたいだし。心配なんだよね」



「彼、すごくよく働いてくれてるからオッサンはカバーが大変だよー」なんて自虐っぽく笑って、田辺課長は去って行った。

その後ろ姿をぼんやり見送ってから、私も目的の方向へ再び歩き出す。


三木くんやっぱり、昨日から体調良くなかったんだ。

熱高いって、大丈夫かな。三木くんの家ってあんまり生活感なかったけど、ちゃんと薬とかあるんだろうか。

そっか、地元、遠いんだ。寝込んでるときにひとりって、心細いよね。


もくもくと廊下を歩きながら、ぐるぐる、そんなことを考えて。

ようやくひとつの決意をした私は、スカートのポケットからスマホを取り出した。
< 189 / 355 >

この作品をシェア

pagetop