苦恋症候群
石畳の道を歩きながら私を宥めるように「ハイハイ」と返事をして、麻智がくすりと微笑む。



「うん、さとりってアレよね。ニガコイショウコウグン」

「にがこい? 何それ、そんなのあるの?」

「んーん、今考えた。苦~い恋ばっかりしてるから、“苦恋症候群”」

「それ、まったくうれしくない……」



症候群って。私の恋愛遍歴はビョーキか。


むうっと顔を不機嫌に歪ませる私に、今度こそ彼女は声を出して笑った。



「あはは。まあ何にしろ、さとりってあまり人に褒められた恋愛してないよねー。ダメンズが寄ってくるというか、むしろさとりの方から飛び込んでってる感じ」

「う……自覚はしてる」



そう。事実前の彼氏も二股男も、私が先にすきになってしまっている。

今思うと、しょうもないキッカケ。けどそのときの私にとっては、恋に落ちるのに十分な理由。

惚れっぽい、わけではないと思うんだけどなあ……恋してない期間、結構続くし。

やっぱり、結論としては『男運がない』ってことなのかな。今度お祓いでもした方がいいんだろうか。



「……あ」

「なぁに?」



スマホの画面を見た麻智が不意に声を上げたから、小さく首をかしげる。

ちょっとだけ言い出しにくそうに、彼女はこちらへと視線を向けた。
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