苦恋症候群
「……やっぱり、寝てるのかな」



1度インターホンを押してみたけれど、ドアの向こうから物音は聞こえて来ない。

マンションの4階にある、三木くんの部屋。その茶色いドアを見上げて、私は小さく嘆息した。


……そりゃそうだよね。病人は寝てるよね。

バッグの中からスマホを探して、メール送信フォルダを開く。

送信時刻、今日のAM11:24。宛先は、三木くんだ。


【三木くん、だいじょうぶ?

田辺課長から、お休みのこと聞きました。

今日仕事が終わったらお見舞い持って行くから、何か欲しいものある?】


それに対して、返信は来ていない。

目を通せば『既読』の文字がつくアプリでもないから、この文章を読んだのかどうかすらわからない。



「勇み足、すぎだよねぇ……」



ぽつりとつぶやいて、苦く笑う。

仕方ない。ドラッグストアでいろいろ買った、このビニール袋だけドアノブにかけておこう。

こんなの置いてても、盗る人だっていないでしょ。
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