苦恋症候群
「三木くん、とりあえずこれ計って」



彼はやはり無言のままそれを受け取り、素直に脇の下にはさんだ。

私が目の前にいるからか、ベッドに横になろうとはしない。


ちょっと部屋が暑く感じたから、エアコンのリモコンを探して設定を少し低くする。

ごそごそとビニール袋を探って、中からスポーツドリンクや冷却シート、レトルトのおかゆなどを取り出した。



「はい三木くん、飲み物ここ置いとくね。飲みにくそうならストローもあるから」

「はあ……」

「あ、鳴った。見せて」



ピピピ、と電子音が響いたから、彼に向かって手を差し出す。

受け取った体温計を確認し、思わず顔を歪めた。



「38度5分……三木くん、薬は飲んだ?」

「1回分だけ残ってたのを……今朝、飲みました」

「……わかった。ちょっとでいいからおかゆ食べて、これ飲んで。それから、汗かいてるだろうからそのTシャツ着替えてね」



こんなこともあろうかと買ってきた、解熱効果の高い風邪薬を袋から取り出して枕元に置く。

着替えはさすがに手伝うこともできないから、こればっかりは自力でやってもらうしかない。



「器と電子レンジ、借りるね」



緩慢な動作で、三木くんが着ているTシャツを脱ぎ始める。それを流し見て、おかゆを持ちながら立ち上がった。

そんな私に、ようやく彼の方から声がかかる。



「……なんで、来たんですか」

「え」



パッと、後ろを振り返った。

彼は上半身裸で、自分の膝あたりに視線を落としている。
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