苦恋症候群
「──たさん、森下さん!」
ようやく自分の名前を呼ばれていることに気がついて、私はハッと顔を上げた。
慌てて声がした方に首を向けると、きょとんとした表情の寺沢課長と目が合う。
「どうしたの森下さん、体調でも悪い?」
「あ、いえ……すみません、大丈夫です」
私の答えにそう?と軽く笑って、寺沢課長がA4サイズの封筒を差し出してきた。
「これ、さっき審査部行ったとき頼まれてきた。森下さんに渡してって」
「え……」
『審査部』という言葉にぎくりとしつつ、封筒を受け取る。
自分のデスクに戻った課長を密かに伺ってから、中の書類を取り出してみた。
係印の欄には、小さく予感した通り【三木】と書かれたハンコが押してある。
私はそれを確認して、誰にも気づかれないようにそっとため息をついた。
風邪をひいた三木くんのマンションを訪れたあの日から、もう1ヶ月半。
あれ以来私と彼は、まともに言葉を交わしていなかった。