苦恋症候群
『おとなしく、しとけよ』



こうしてる今も……無理やり私の口を押さえつけた男の手の感触がふとした瞬間に思い出されて、寒気がする。

だけどその後、すぐに思い浮かぶのは──私の身体を包むあたたかい体温と、落ちつくにおい。



『……めん、……ごめん……っ!』



あのときの彼の謝罪には、たぶん私を避けていたことについてと……それから一緒に帰らなかったことについての、ふたつの意味が込められていたんだと思う。

どっちにしろ、三木くんのせいじゃないのに。両方とも、私に落ち度があるのに。



『嫌いで、いいから……っ避けない、で……っ』



でも、彼に対する気持ちに気づいてしまった、昨日の私には。

口をつぐんであのあたたかい腕にしがみつくことしか、できなかったんだ。
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