苦恋症候群
「お、送るって」

「今日は何か予定ありました?」

「ない、けど……」

「じゃあ送ります。ほら、着替えてきてください」



言われるがまま女子更衣室に向かい、混乱しながらも急いで私服に着替えた。

更衣室を出てからはスタスタ足早に廊下を歩く三木くんに必死でついていくようにしながら、私も足を進める。

階段を下り、職員通用口から建物の外に出たところで、ちらりと彼がこちらへ視線を向けた。

その眼差しに、自然と体温が上がる。



「これからしばらくは、時間が合う限り、俺が森下さんのことを家まで送ります。森下さんが、平気になるまで」

「え……」

「あんなことあって……本当はひとりで帰るの、こわいでしょう」



図星を突かれて、言葉に詰まった。

……本当は、外がまだ明るくても。

家にたどり着くまでの、ほんの15分の距離でも。

ひとりで歩くのが、こわくてこわくて仕方ない。

どこかに、あの男が潜んでいたら……またあんな目に、あったらって。

どうしても、悪い方に考えてしまう。


押し黙った私を一瞥し、ふうと小さく、三木くんがため息を吐く。



「……俺と帰るのが嫌なら、仕方ないですけど」



言いながら立ち止まり、彼は私の返答を待つようにじっとこちらを見つめてきた。

戸惑いながら、私は三木くんのネクタイのあたりに視線をさまよわせる。
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