苦恋症候群
「森下さんって……落ちついてるようで、実は結構おっちょこちょいですよね」

「う、ご、ごめんなさい……」

「……責めてるわけじゃ、ないんですけどね」



また困ったように笑った葉月さんが、紙コップに視線を落とす。

そうして、ぽつりぽつりと話し始めた。



「8月の、半ばくらいだったかな。同期会で居酒屋行ったとき、たまたま同じタイミングで中座してふたりきりになって……懲りずにまた告白したら、そのときにハッキリ言われました。『俺は葉月とは付き合えない』って」



自らが失恋した話をしているはずの彼女の表情は、ただひたすらに穏やかだ。

無言のまま耳を傾ける私に、葉月さんは続ける。



「それと……『こないだはあんなこと言ったけど、俺は葉月のこと大事な同期だと思ってる。だから、今のままの距離でいよう』って。ひどいですよね、三木さん。恋人にはなれないくせに、関わらないようにすることは許してくれないんですから」



「でも」、と。

そう言って彼女は、やはり微笑むのだ。



「うれしかったんです、あたし。恋愛感情はなくても、“同期の葉月美礼”は、大事にしてもらえたから。その言葉でもう、キッパリ諦めがついたんです。──だからあたしは、一抜けです」



言いながらテーブルから視線を上げた葉月さんの表情は、とても晴れやかなものだ。

8月の半ばといったら、花火大会の少し前あたりだろうか。

あのときにはもう、三木くんが葉月さんにはっきり返事をしていたなんて。
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