苦恋症候群
「あっ、そうでした! さとり出席だよね?」

「うん。総会も懇親会も出るよ」



うなずくと、麻智は満面の笑みを返してくれる。



「じゃあ私と同じだね。それじゃまた、そのときに話そ!」

「さとりちゃん、帰り気をつけてね」

「ありがと。それじゃあねー」



最後にまた手を振って、私はふたりに背を向けた。

せっかくだから、駅前でもう少し買い物してから帰ろうっと。土曜日のお昼過ぎ、まだまだ時間はたっぷりある。 


あのふたりも、とうとう同棲かあ。一見草食系っぽいのに、やるなあ文哉さん。

たしかに彼、“イイ人”ではあるんだけど……私が思うに、実は結構腹黒そうだしなあ。

このままあれよあれよという間に、短期間で結婚まで持ち込むつもりなんじゃなかろうかあの人。


……結婚、か。

不意にそこで真柴課長のやさしい顔が思い浮かび、胸が軋む。

少し前までは──私だってそのうち誰かと結婚して、いつか子どももできたりして。

そうやって、ささやかでもしあわせを掴むんだと思ってた。


ひとり歩きながら口元に小さく浮かぶのは、自嘲的な笑み。

……麻智、しあわせそうだった。そうだよね、だいすきな人に望まれて、一緒にいられるんだもん。

私はまだ、苦い恋愛から抜け出せそうにない。
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