苦恋症候群
「森下さん。わかってるかもしれないですけど、三木さんって自分が興味ないことにはほんとにそっけないんです。人でも物でも、一瞥すらくれないっていうか」

「う、ん……」

「それに三木さん、基本的には流れに身を任せるタイプで、自分が目立ったり波風立って場が荒れるのを嫌うから……好きじゃないなら、ただ自分が関わらないようにして、自然に距離を置けばいいだけのことです。それをわざわざ、『嫌い』って口にしたのは……何か、理由があったんじゃないですか?」



『嫌い』という言葉を、口にする理由?

そんなの、ただ“嫌い”だったからってだけじゃないの?


黙りこくった私に、さらに葉月さんが畳みかける。



「『“すき”の反対は“無関心”』って、よく言うじゃないですか。それを地で行く三木さんは、本当の意味で、森下さんのことを嫌ってはいないと思います」

「……葉月さん」

「あたしは……本心で、森下さんと三木さんがうまくいけばいいと思ってます。あたしではだめだったけど、森下さんなら大丈夫な気がするから」



なぜか必死でこちらをフォローしてくれる葉月さんの言葉に、やっぱり私はなんて返せばいいのかわからない。

その後も彼女はいろいろと話してくれたけれど、三木くんの話題に関しては、どうしても歯切れ悪くしか答えられなかった。

葉月さんと別れた後も、ひとりテーブルから動けないまま、しばらくぼんやりしていて。


三木くんに、“嫌い”と言われた。でも葉月さんは、“そうじゃない”と言う。

できるなら、私は葉月さんの言葉を信じてみたい。……信じたいけど、どうしても、そんなふうに前向きになれない。



『……あんたに、何がわかる』



あの日私に向けられた冷たい視線と『嫌い』の三文字が、頭から離れないのだ。

……また、あんな思いを味わうくらいなら。最初から多くを望まないようにって、思考が心にブレーキをかける。

もうとっくに冷えきってしまったカフェオレを見下ろしながら、無意識にため息をついた。


ああ、やっぱり私には、甘い恋はできそうもない。
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