苦恋症候群
「三木くん」



私が声をかけると、建物に背を預けてどこか空を見つめていた彼が、ゆっくりこちらに顔を向けた。

その動作にすらドキドキしながら、私は急ぎ足で彼はと近づく。



「ごめんね遅れて……お疲れさま」

「いえ。お疲れさまです」



私がそばに来るのを一旦待って、三木くんは歩き出した。

前を向くその横顔を、斜め後ろから追いかけながら盗み見る。



『これからしばらくは、時間が合う限り、俺が森下さんのことを家まで送ります。森下さんが、平気になるまで』



あれからもう、2ヶ月近く。

律儀にその言葉を守ってくれている彼とは、週に少なくとも3回以上、こうして一緒に帰っている。

待ち合わせは、決まって会社の第2駐車場。こちらの方が第1駐車場より、他の職員と遭遇する機会が少ないからだ。


先ほどハナさんからもらったばかりの紙袋の紐を、ぎゅっと握りしめる。

──私は、ズルい。三木くんは私のことが嫌いだから、こうして一緒になんて、本当はいたくないはずなのに。

その、罪悪感とやさしさを利用している。
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