苦恋症候群
……だけど、今だけ。

今だけは、近くにいたい。

きっとこうやって送ってもらうのも、あと少しだ。

あの事件からはもう、2ヶ月も経つのだから……そろそろ、彼を解放してあげなければならない。


一緒に帰るといっても、ぽつぽつ言葉を交わしながら、あくまで間に人ひとり分のスペースをあけたまま並んで歩くだけ。

……それでも、うれしい。

うれしいと思ってしまうから、この“約束”を手放せなかった。



「三木くん、すごい完全防備だね」



隣を歩く三木くんをしげしげと見上げながら、思わず私はそう漏らす。

彼はグレーのPコートに黒いマフラーと手袋をはめ、そしてさらには、ふわふわした耳あてまでつけていた。

三木くんは前を向いたまま、ちょっとだけ拗ねたような表情をする。



「寒いの、苦手なんです」

「ふふっ、そうなの」



小さく笑ったら、ますます彼は拗ねたようにくちびるを結んだ。

こうした一面を知れただけでも、自分の気持ちを自覚した今となっては、たまらなくいとしい。
< 236 / 355 >

この作品をシェア

pagetop