苦恋症候群
彼と恋人同士になりたいのかと訊かれたら、なんとなく、そうではない気がする。

私はただ、彼にしあわせになってほしいだけ。いつも、笑っていてほしいだけだ。

それにはまず、嫌悪の対象である自分から、解放してあげなきゃいけないんだけど。



「森下さん、それ重そうですね」

「え?」



不意に話しかけられたから、ぼんやり思考にとらわれていた私はハッとして彼を見上げた。

左隣を歩く三木くんの視線の先は私が右手に持つ、ハナさんからもらったプレゼントが入った紙袋だ。

それを、軽く持ち上げてみせる。



「ああうん、中身ビンだからねぇ」

「俺、持ちますよ」

「……ありがとう。でもこれは、自分で持ちたいから」



言いながら自然と、笑みが浮かぶ。そんな私を見下ろす三木くんが、少しだけ首をかしげた。



「何か大切なものなんですか?」

「あ、えーっと、ハナさ──成瀬主任にさっきもらった、プレゼントなの」



プレゼント、という単語に反応し、彼が目をまたたかせる。



「もしかして森下さん、今日……12月12日が、誕生日なんですか?」

「あ……うん」



別に言うつもりはなかったのだけど、思いがけなく知られることになって多少引け目を感じながらうなずいた。

三木くんは、そんな私をおだやかな表情で見下ろす。
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