苦恋症候群
「そうなんですか。おめでとうございます」

「あ、ありが、とう……」



お祝いの言葉もそうだけど、三木くんがやさしい眼差しで、口もとには小さく笑みも浮かべているから。

だから私はきゅうっと胸が切なくなって、たどたどしくお礼を言った。


どうしよう、うれしい。

今日が誕生日って知られたのは、予想外のことだったけど……だけどやっぱり、すきなひとに『おめでとう』って言ってもらえるのは、すごくうれしい。

顔が赤くなっていないか心配で、三木くん側の左の頬に手の甲をあてながら、少しだけうつむいた。

微笑を浮かべたまま、彼はまた口を開く。



「中身がビンってことは、もしかしてお酒ですか?」

「あ、うん。あとおつまみだって」

「……さすがですね」



ぼそりとつぶやいた三木くんのそれに、ちょっとだけくちびるを尖らせてジト目を向ける。



「なあにそれ、どうせ私はお酒大好きですよ~」

「や、それももちろんありますけど。成瀬主任のチョイスが清々しすぎてすごく胸が熱くなるというか」

「ふふ、ハナさん豪快だから」

「人は見かけに寄らないというか、むしろ逆に見たまんまというか」

「あはははっ」



ああ、なんか、この感じいいな。

少し前、屋上でふたりで息抜きをしてた頃は、こんなふうに笑い合いながら何気なくやり取りできてたから。

今の私たち、なんだかあの頃に戻ったみたいで……すごく、楽しい。
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