苦恋症候群
「じゃあ、今夜はそのプレゼントのお酒で祝杯ですか」

「ふふー、うん。ひとり酒なのがさみしいところですが」



しかもこの紙袋、お酒だけじゃなくておつまみもぎっしり入ってるし。

ひとりにこの量、切なすぎる。


答えた私に、三木くんは哀れむような目を向けてくる。



「……残念ですね。誕生日にひとり酒」

「うっ、追い討ち……っ」



わざとらしく苦しんだ様子で、胸を押さえてみせる。

それを見た三木くんが珍しく、口もとに手の甲をあてながら「ははっ」と声に出して笑った。


その不意打ちで無邪気な笑顔に、きゅんと胸を射抜かれる。

無意識に私は、また口を開いていた。



「……じゃあ」

「はい?」

「じゃあ……三木くんがこれからウチに来て、一緒に飲んでくれたらいいのに」

「え、」



驚いたようにこちらを見下ろす、三木くんの顔。

それを見た瞬間ハッとして、自分の失言に気づく。私は焦りながら、身体の前で両手を振った。



「ごっ、ごめん三木くん! いきなりそんなこと言われても、迷惑なだけだよね。もう、私、何言ってんだか……っ」

「もりし、」

「ごめんね、あの、今のは忘れて──」

「……森下さん」



静かに、だけどはっきりと名前を呼ばれ、私は口をつぐんだ。

こわくて、顔が上げられない。なんだか泣きそうになるのを堪えていると、また声が降ってくる。
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