苦恋症候群


◆ ◆ ◆


本部の屋上というのが、実は結構穴場だ。

津波などの非常時用の避難場所という意味もあるのか、勤務時間中は常に開放されている。

そしてそのことを知っている人は決して少なくないと思うのだけど、いつ行っても屋上に人影は見当たらなくて。

だから私は仕事が煮詰まって疲れたときなんかに、よく気分転換でここを訪れていた。


ご機嫌に小さく鼻歌をうたいながら、屋上へ続く階段を上る。

手には今朝出勤時に会社近くのコンビニで買った、お気に入りのカフェオレ。今日は天気が良くて風も弱いから、きっと屋上は気持ちいいだろうと自主休憩をとってやってきたのだ。

時刻は15時半。おやつとしてもベストだ。

営業店にいたら締めの作業の関係で絶対休めない時間だよねぇ、なんてちょっぴり申し訳ない気分になりながらも、意気揚揚と銀色の扉を押し開ける、と。
< 24 / 355 >

この作品をシェア

pagetop