苦恋症候群
「森下さん、悪いんですけど、俺……」

「っあの、うん、迷惑だったよね。ほんと私……っ」

「いや、そうじゃなくて。……俺、プレゼントになるようなものとか、今持ってなくて」



予想外の言葉が聞こえ、思わず顔を上げた。

一瞬三木くんと目が合うけれど、すぐに逸らされる。



「それでも、よければ。お付き合いします」

「え……」



普段の彼よりなんとなく歯切れの悪いそれに、今度こそ、驚きの声が漏れた。

さっきとは反対に、じっとその横顔を見つめてしまう。



「三木くん……い、いいの?」

「……俺なんかで、よければ」

「や、なんかだなんて、そんなこと……っ」



私は、きみがすきなのに!

不自然なくらい必死になって否定しそうになったところを、こくりと唾を飲み込んで落ちつかせる。

紙袋を持つ手に力を込めてから、また彼を見上げた。



「ありがとう、三木くん。えと、お願い、します」

「……お願いされました」



小さく微笑んだ私に、彼はいつもの調子で言葉を返した。

でも、こちらから視線を外したその表情が、ちょっとだけ照れているように見えてしまうのは……私の気のせい、なのかな。

……気のせいでも、いいや。今、とても、うれしいから。


隣を歩く三木くんが、また無言になってしまったその理由が。

私の家でふたりきりになることを、意識してくれてるせいならいいのに。
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