苦恋症候群
カチャ、と差し込んだ鍵をまわす。

ドアを押し開けながら「どうぞ」とつぶやいて、後ろに立つ三木くんを家の中に招き入れた。



「おじゃまします」

「はーい。えっと三木くん、私荷物置いてくるから、ちょっとリビングで待ってて」

「わかりました。あの、洗面所借りてもいいですか」

「あ、うん。そこのドアだから」

「ありがとうございます」



律儀にそう言った彼が手を洗う音を聞きながらリビングの暖房をつけ、私は寝室の引き戸を閉める。



「……はあー……」



コートを脱いでハンガーにかけながら、大きなため息。

さっきはうれしさが先にたっちゃったけど、今になってかなり緊張してきた。


だって、三木くんとふたりきり。

私の家に、三木くんとふたりきり。

これで緊張しない方が、おかしいでしょ。


このままで変じゃないよね、と私は今自分が着ている通勤用の私服を見下ろし、ひとつ深呼吸をしてからリビングに戻った。

あたりまえだけど、そこには三木くんがいて。否応なしに、心臓がドキドキ音をたてる。



「待たせてごめんね。あ、テレビつけよっか」



スーツのジャケットを脱いでネクタイも外しているラフな格好の三木くんにときめいてしまったのを悟られないよう、慌ただしく動き回る。

私も手を洗ってから、キッチンの棚からワイングラスと大きなお皿をふたつずつ持ってきて、リビングのテーブルの上に置いた。

ハナさんにもらった紙袋を開け、中に入っていたチーズやナッツ類を適当にお皿に並べていく。
< 241 / 355 >

この作品をシェア

pagetop