苦恋症候群
「ワイングラス。さすがですね」

「も、もらいものだよ。お酒好きって知られてると、何かとこういうのもらうの!」

「へえ~」

「なっ、なによう」



何か言いたげな含みのある視線を向けてくる彼に、思わずくちびるを尖らせた。

よかった。三木くんが普段通りな感じだから、私も極端に意識せずにいられる。

ハナさんがくれたボトルは、ラベルに黒ネコの絵があるロゼワイン。私が好きなやつだ。


三木くんは私の手からさりげなくボトルを奪って手際良くコルクを抜くと、私のグラスにワインを注いでくれる。

お返しに、今度は私が彼の分のワインを注いだ。

そのグラスを持って、三木くんが小さく笑う。



「なんだかすみません。森下さんがいただいたものなのに、俺もごちそうしてもらって」

「ううん、いいの。ひとりで飲むより、誰かと飲む方がいいから」



笑顔で首を振った私に、刹那、彼の瞳が揺れたような気がした。

だけどそれは一瞬のことで、すぐにまた、穏やかな顔に戻る。



「誕生日、おめでとうございます」



カチン、と合わさったグラスが音をたてた。

この状況がうれしくて、夢みたいで。私は照れくさくなりながら、微笑んだ。



「……ありがとう、三木くん。うれしい」



きみが私を嫌いでも。私はきみがすきだよ、三木くん。


……たとえ、今日だけでも。

私のワガママに付き合ってくれて、ありがとう。
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