苦恋症候群
え……さっき三木くん、『俺が楽しいだけ』って、言った?

何それ、どういう、意味で……。


アルコールにどっぷり浸かった頭は、普段よりも全然働いてくれない。

ぐるぐる思考がループしている間にも、三木くんの手の中で白いティッシュペーパーは形を変えていく。

なんの変哲もない四角い形だったそれは、角を折られて、くるくると丸められて、半分は細長いこよりのようにねじられて……。



「はい、どうぞ」



言いながら目の前に差し出されたものは、もう、ただのティッシュペーパーなんかじゃなかった。

少しだけ震える手で、私はそれを受け取る。


白くて、可憐ですらある、それは──。



「……バラ……?」

「新人の頃外回りしてたとき、集金先だった家のおばあちゃんに作り方教えてもらったんです。意外とよくできてるでしょ?」



そう言って三木くんは、ちょんと指先でバラの花びらに触れた。

こうやって手に持っていても、へたることなくしっかり背筋を伸ばして咲き誇っている白いバラ。

三木くんがくれた、紙の花。

今になって、かあっと頬が熱くなる。


……ああ、もう。このひとって、なんで。

身体が火照ってるのは、アルコールのせいなんかじゃない。

ドキドキうるさい心臓も、お酒を飲んだからというわけじゃない。
< 245 / 355 >

この作品をシェア

pagetop