苦恋症候群
私の様子に気づいているのかいないのか、三木くんが不意に、座っていたラグから立ち上がる。



「……おじゃましました。俺もう、帰ります」

「あ……っ」



彼に倣って、私も慌てて腰を上げた。

三木くんにもらった白いバラは、壁際のカラーボックスの上にそっと置く。



「私、駅まで送るよ!」

「何言ってんですか、それじゃ本末転倒です。俺は男だし、ひとりで帰れます」

「で、でも……っ」

「俺を送ったら、今度は森下さんが帰りはひとりになるでしょう。そうしたら俺が心配なので、また家まで送るために戻ってきちゃうことになりますけど」



そう言って三木くんが、イタズラっぽく笑うから。



「……ッ、」



一瞬、くらりとめまいがしてしまった。

足元がふらついて、テーブルの足にぶつかる。

バランスを崩した身体が、傾く。
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