苦恋症候群
「森下さ……っ」



──あ、倒れる。

そう思ってぎゅっと目を閉じる直前に見えたのは、焦ったような表情の三木くん。

派手な音をたてて、私は背中から後ろに倒れこんだ。

……なのに、思ったほどの痛みと衝撃が、身体に伝わってこない。

おそるおそる目を開ける、と。



「……ほんとに、森下さんって……」



超至近距離に眉をひそめた三木くんの綺麗な顔があって、思わず硬直した。

よくよく状況を確認してみれば、私の背中には彼の左腕がまわされている。

右手は床につき、私の身体が固いフローリングに打ちつけられるのをとっさに防いでくれたようだった。


状況を理解したとたん、かあっとまた頬に熱が集まる。

いや、頬だけといわず、むしろ身体全体だ。

あわあわと狼狽えながら、私は口を開いた。
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