苦恋症候群
「ごっ、ごめん私……っ三木くん痛かったよね？！」

「別に、俺はこのくらい平気ですけど……森下さん、気をつけてください」



すっと、三木くんの左手が私の右の頬に触れた。

目の前にある彼の表情がやけに真剣だったから、言葉を失う。



「森下さんは女のひと、なんですから」

「……ッ、」

「あ、すみません。今どきます」



そのまま、三木くんが立ち上がりかける。それを引き留めるように、床についていた彼の右腕をぎゅっと掴んだ。

驚いたように再び私に視線を戻した彼の瞳を、まっすぐに見つめる。



「……すき」



小さな、小さなつぶやきは、それでも彼に届いたようだった。

驚きに目を見開く三木くんから必死で視線を逸らさないようにしながら、震えるくちびるを動かす。



「三木くんが、すき。……すきなの」



瞬間、顔を歪めた彼のその表情を、何とたとえたらいいんだろう。

怒っているような、悲しんでいるような、苦しんでいるような。

少なくともいい印象ではないその表情を浮かべた三木くんが、ダンッ！と私の顔のすぐ横に、左のこぶしを振り下ろした。
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