苦恋症候群
「だから、麻智のせいじゃない」



笑顔のままキッパリ言いきると、麻智はぎゅっと目を瞑って私の手を握りしめた。



「……さとり、大好きよ。だからさとりには、しあわせになって欲しい。もう三木くんのことを忘れたいのなら、何も言わないけど……でもまだ、諦めたくない気持ちがあるんだったら。私は、いつだって応援するよ」

「麻智……」



そのとき、酔いつぶれて寝てしまっていたはずの葉月さんが、ぱちりと目を開けた。

まだ少し眠そうな瞳で、なぜか彼女までもが、麻智に重ねるようにして私の手を包む。



「あたしも、森下さんのこと好きです。だから森下さんの恋が、叶って欲しい。……もしかしたら、叶わなかった自分の想いのことがあるから、余計にそう思ってしまうのかもしれないんですけど」

「葉月さん」

「がんばってください、森下さん。三木さんは、森下さんのことを嫌ってなんかいません。絶対です。あたしはもう6年以上、あの人と同期やってるんですから……そのくらい、わかります」


そう言って、また強く手を握ってくる葉月さん。

心配そうに、私を見つめる麻智。

ふたり分のあたたかさが伝わって、じわりと涙が浮かんだ。



「……うん。ふたりとも、ありがとう」



もう少し、がんばってみよう。

がんばって……それでもダメなら、仕方ないけれど。

でも、『ああ、これでもダメなら仕方ないな』って思えるくらいに、ちゃんとがんばるから。

だからふたりとも、背中を押してね。



「私も……麻智と葉月さん、大好き」



なんだかこの状況が可笑しいのに、うれしくてまた涙腺が緩む。

3人でなぜか揃って涙ぐみながら、笑い合った。
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