苦恋症候群
【森下さん、試験お疲れさまです。って、今これ打ってる時点ではこれからですけど。
あたしも終わり次第正面の自動ドアのところ行くので、先に終わったら待っててくださいね。
では、お互い試験がんばりましょう^^】



メールの差出人は葉月さん。受信時間は、試験が始まる少し前だ。

今回は受験者数が多かったらしく、私が受けていた会議室とは別に、もうひとつ試験用の部屋が用意されていた。葉月さんは、そこで試験を受けているのだ。

試験が終わるのが、ちょうどお昼時。だから終了後に待ち合わせて、ふたりでランチへ行こうという話になっていた。

ちなみに麻智は去年試験を受けて合格済なので、今年は受験していない。


約束通り本店の正面出入口に来てみたけど、葉月さんはまだ来ていなかった。

まあ、試験終了時間までまだあるし。きっとじっくり見直してるんだろうな。


雪はもうやんでいるようだった。自動ドアをくぐって、外へと出る。

とたん、冷たい風が頬を刺したから、私はスモークピンクのマフラーを念入りに巻き直した。そうして、自動ドア横のディスプレイに貼ってあるポスターの前に寄りかかる。


珍しいな、積もるなんて。今年は、雪の日多いのかな。

寒いけど、雪を見るのは好きだ。きっとすぐに葉月さんは来るだろうし、それまで白く染まった街を眺めていることにする。


……ランチ、どこがいいかなあ。試験終わってスッキリしたし、ちょっと奮発してイタリアンのあのお店とか……。

ぼんやりそんなことを考えていたら、不意に自分のすぐ横にある自動ドアが開いた。

何気なくそちらに目を向け、そして私は思わず固まる。



「三木くん……」



とっさに名前をつぶやいた瞬間彼もこちらを見て、同じく驚いたような表情をした。
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