苦恋症候群
三木くんも、試験受けてたんだ。

きっと私とは別室だったから、気づかなかった。

あの日以来、こんなに近くで彼と会うのは初めてだ。

一緒に帰ることも当然なくなっていたし、偶然なのか、それとも意図的なものなのか……廊下ですれ違ったりするというのも、なかったから。



「……森下さん」



彼は深くマフラーに顔をうずめているから、口元はよく見えない。

だけどハッキリ確認できる目もとは、なんだか気まずそうに歪んでいた。

どうしよう、と一瞬考える。だけど思いきって、私は口を開いた。



「え、と、お疲れさま。三木くんも、試験受けてたんだね」

「はい、まあ……」

「そ、か。っあ、私はね、今、葉月さんとランチ行くのに待ち合わせてて」

「……え?」



訝しげにつぶやいた彼は、その声音に違わず眉をひそめた。

……なんだろ。私と葉月さんが、彼の知らない内に一緒にごはんを食べに行くような仲になっていたからかな。

ああ、それとも、別にそんなこと聞いてねーよって?


だけど一瞬にして頭の中を駆けめぐったその予想は、どちらも違ったらしい。

彼が1歩、こちらへと近づいてきた。



「俺も。葉月と約束して、ここで待ってるように言われたんですけど」

「へっ?」

「なんか、話があるとかで……なんなんだアイツ」



後半の言葉は、マフラーを人差し指で直しながらひとりごとのように小さくつぶやく。
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