苦恋症候群
え……どういうこと?

葉月さん、三木くんとも今日約束してたの?


多少混乱して、呆然とその場に立ち尽くす。

そのタイミングでコートのポケットに入れていたスマホが震えたから、ハッとしてディスプレイを確認した。

受信したメールの差出人は、まさに今話題にのぼっている葉月さんだ。



【森下さん、がんばってくださいね】



たった1行だけのそのメールで、すべてを察する。

私に、ランチのための待ち合わせと言ったのは嘘。三木くんに、話があるからとこの場所を指定したのも嘘。

全部、私と彼を引き合わせるためだったんだ。


……どうしよう。目の前に、三木くんがいる。



「……森下さん?」



名前を呼ばれて、思わず肩を揺らした。

ぎゅっとスマホを握りしめてから、思いきって顔を上げる。



「葉月さん、今日はもう、来れないみたい」

「え?」

「なんか……急用、できたとかで」

「……んだよ、それ……」



拍子抜けしたように白い息を吐き、彼はカバンから手袋を取り出した。

それを両手にはめながら、踵を返しかける。



「……それじゃあ。俺はこれで」

「あ……っ待って三木くん!」



自分でも何を話せばいいのかわかっていないのに、思わずその背中を呼び止めてしまう。

三木くんは、私の声に反応して立ち止まってくれた。だけどこちらに、背中を向けたままだ。

何の感情も見えない彼の姿に、足がすくんでしまうけど。

意を決して、私は1歩彼に踏み出した。
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