苦恋症候群
「そんなの、ちゃんと全部口にしてくれなきゃわかんない……! だって三木くん、私のこと嫌いって言ったときも、こないだも……っ言葉は冷たいのに、泣きそうな顔してた……!」

「……ッ、」

「三木くんのそんな顔、見てるのに……黙ってなんか、いられない。言いたいことあるなら、隠さないで……っ私にとって良いことでも悪いことでも、全部、教えてよ……っ」



私の必死の呼びかけに、彼の瞳が揺らいだ。

──ああ、またあのカオだ。

今にも泣き出してしまいそうな、苦しそうな。切ない、カオ。


またぎゅっと、彼の腕にしがみつく力を強くする。



「三木くん、ちゃんと私と向き合ってよ。三木くんはいつもどこか、私から目を逸らしてる気がする」

「……っ森下さん、離してください」

「いや、離さない。だったらちゃんと、振ってよ」

「ッ、はな……っ」


「うわあっ!!」



突然すぐそばで聞こえた悲鳴に、私と三木くんはびくりと肩をはねさせた。

悲鳴と同時に聞こえたのは、何か液体が勢いよくこぼれたような音。私たちは思わず、声がした方へと揃って顔を向ける。



「おっまえ、大丈夫かよ~」

「いってぇ……氷ですべった……」



視線を向けた先にいたのは、ふたりの男の子だった。

紫色のダウンを着た、地面に尻餅をついている子の傍らで、何本もの筆を持った男の子が呆れたような表情をしている。

そしてふたりのそばには、青いバケツと……白い雪の中に広がる、赤。
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