苦恋症候群
「あーあ、下水に捨てる色水、全部ぶちまけちまってんじゃん」

「少しはオレの心配しろよ……」



おそらくそのふたりは、近くにある芸術系の専門学校の生徒なんだろう。

うちの会社は建物の両脇に駐車場があり、それぞれ向かって右が第1駐車場、左側が第2駐車場だ。

そして第2駐車場の隣は空き地になっていて、専門学校の生徒たちが、よくそこを利用して作業をしているのを見かけていた。


尻餅をついていた男の子がようやく立ち上がりながら、歩道脇の積雪に広がった赤い色へと目を向ける。



「どーしよコレ、怒られないかな」

「平気だろ、水性絵の具なんだから。それより早く戻んねーと、また先輩に怒られるのが先だぞ」

「げ、やべっ」



転がっていたバケツを拾って、バタバタとそのふたりが去って行った。

その後ろ姿を、ぼんやり見つめてしまう。

そして私はふと、三木くんの様子がおかしいことに気がついた。



「……三木くん?」



彼はなぜか、雪に広がる赤い色を異常なほど凝視していて。

カタカタと、その身体が小さく震えている。



「三木く──」

「……ッ、」



だんだん、彼の呼吸が荒くなっていくのがわかる。

身体がふらついて、ガクンとその場に膝をついた。



「っわ、え?!」

「……ッ、……ッ、」



はあ、はあと右手でぎゅっと胸もとを押さえながら、三木くんは荒い呼吸を繰り返している。

私も慌てて傍らにしゃがみ込み、その背中をさすった。
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