苦恋症候群
「三木くん?! 大丈夫!?」

「……ッはあ、」



顔色、真っ青。真冬だというのにその形のいいひたいにはうっすら汗もかいて、すごく、苦しそうだ。



「どうしよ、きゅ、救急車……!」



急いで自分のバッグからスマホを取り出す。その手を横から、がしりと掴まれた。

思いのほか強い力に、私はまたパッと顔を上げる。



「み、」

「……ご、め……っ」

「え?」



ぎりぎりと痛いくらいに腕を掴む三木くんの視線は、こちらを向いていなかった。

どこか虚ろな目を白い雪に向けながら、彼はつぶやいた。



「ごめ、ごめん、ごめん……っ」

「みきく、」

「……ごめんな、ごめん……ユキヒ……っ」



うわ言のように『ごめん』と繰り返す三木くん。

その中で彼はたしかに、『ユキヒ』という女性の名前を口にした。


ぐっと、下くちびるを噛みしめる。

そしてすぐそばにある三木くんの頬を両手で挟んで、ぐいっとその顔を上向かせた。



「……三木くん、大丈夫」

「──、」

「大丈夫、だから」



小さい子どもに言い聞かせるように、ゆっくりと繰り返す。

不安と苦痛に曇ったその瞳が、ふっとまばたきをした瞬間に、いつもの光を取り戻した。



「……森下さん……」



きつく腕を掴んでいた彼の手から、力が抜ける。

まるで迷子の子どものように弱々しく名前を呼んだ三木くんに、私は小さく微笑んだ。
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