苦恋症候群
「……ほんとに……」

「え?」



不意に後ろから声が聞こえたから、反射的に振り向いた。

三木くんは、やはりマグカップに視線を落としたまま。

だけどその口もとに、ほとんど苦笑みたいな小さな笑み。



「ほんとに……あなたには、敵わない」



どうしてか、いとおしそうな口調でそんなことを言うから、どきんと心臓がはねた。

呆然と動けない私の目の前で、三木くんはベッドボードに自分のマグカップを置く。

そしてちらりと、さっき私が使っていたコーヒーカップに視線を向けた。



「森下さん、もう帰るんですか?」

「え……」

「……コーヒー、まだ、残ってますよ」



……それは。まだこの部屋に、いてもいいということだろうか。

おそるおそる、彼のベッドの近くまで戻って、静かにまた腰を下ろす。

ドキドキうるさい心臓に手をあてながらそっと三木くんを見上げると、彼は自分の後ろにある窓に視線を向けていた。
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