苦恋症候群
「遥。こちらは、前川千香子さん。そしてこちらが、娘さんの雪妃ちゃんだよ」

「はじめまして、遥くん」

「……はじめまして」



ホテルのロビーで初めて顔を合わせたその女性は、やさしそうなたれ目が印象的な人だった。

父さんが再婚したいと考えているその女性も、シングルマザーで。

つまり俺には母親と同時に、血の繋がらない姉もできるということになる。

父さんは、そこの問題も危惧していたようだけど……自分自身も多少抱いていた不安は、この日に綺麗さっぱり消え去った。



「こんにちは遥くん。あたしは、前川雪妃です」



自分よりも背の高いその女の子は、まっすぐに俺を見つめてにこりと笑う。

背中まである黒くて長いまっすぐな髪に、薄紫色のワンピース。なめらかな素材のそれに少しだけヒールのある白いサンダルを合わせた彼女は、人好きのする笑顔で屈託なく俺に話しかけた。
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