苦恋症候群
そよそよと吹くやわらかい風が、私の鎖骨まで伸びたこげ茶色の髪をなびかせる。

なんだかなあ。彼とはあくまで、普通の同僚ではいられないようだ。


ストローをくわえつつ遠くの景色に目を向けながら、ぼんやりしていると。



「……森下さんって」



初めて彼が、そう言って自分からこちらに話しかけてきた。



「なに?」

「森下さんって、社内で不倫なんかしてるからどんな魔女かと思ってたけど。意外と普通なんですね」

「ま、魔女って……」



しかも『意外と普通』って。それ絶対褒めてないでしょ。

思わず不満げな顔をしてしまった私に、やはり彼は淡々と続ける。



「だって、奥さんいる人相手にするわけだし。どんな卑猥なテクを駆使してるのかと」

「……まだお外明るいからね、三木くん」



思わずまたツッコんでしまった。

なんなんだこのコ。ことごとく変化球ぶちかましてくるなあ。

私はずずっとカフェオレを吸い込んで、中身を飲み込むと。

少し考えてから、ゆっくり口を開いた。
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