苦恋症候群
◆ ◆ ◆
「……雪妃は、俺が殺したようなものです」
苦々しく吐き捨てた言葉が、ふたりきりの空間に溶けて消える。
目の前にいる森下さんは、静かに俺の話に耳を傾けていた。
俺はその顔を、見れなくて。ただひたすら、自分の膝に乗せた手に視線を落とす。
「俺があのとき、拒否しなければ。雪妃はあんな時間にひとりで家を出て、ひき逃げなんかに遭うことは、なかった」
「ちが……」
「あんな……あんなにあっけなく……っ死んでしまうなんてこと、なかったのに……!!」
首を横に振る彼女の言葉を唸るようにかき消し、ぎりりと、組んだ両手に力を込めた。
うつむいている頭のあたりに、森下さんの視線を感じる。そして何か言いたげな様子で、少しだけこちらに近づいたのがわかった。
だからその口が開かれる前に、俺は続ける。