苦恋症候群
「ずっと、後悔してるんです」



三木くん、と彼女の声が俺を呼ぶ。

だけど、それを無視して。また強く、こぶしを握りしめた。



「『雪妃は姉だから』、なんて。そんな綺麗事、思わなければよかった」

「み……」

「ッ同情でも、いいから。あのとき、抱いておけば、よかったって……っ」



──パチン!

乾いた音とともに、左の頬に衝撃を感じる。

一瞬何が起こったのかわからなくて、だけど、とっさに横を向いてしまっていた顔をゆっくりと戻す。

視線の先では膝立ちになった森下さんが、俺を叩いた格好のまま、下くちびるを噛みしめていた。



「もりしたさん……」



頬を張られた痛みなんて、気にならなかった。

そんなことより俺は彼女がそんな行動をとったことに驚き、呆然と森下さんを見つめる。



「ばか……」

「え、」

「馬鹿、三木くんの、馬鹿……!」



ぶわ、と森下さんの瞳に涙が浮かぶ。

あっという間にそれは溢れて、彼女の頬を濡らした。



「同情でもいいから、なんて……っそんなの、自分勝手でご都合主義で、雪妃さんに失礼だよ!!」

「もりし、」

「私も、三木くんのことがすきだから、わかるの……っ! 雪妃さんはね、きみに振られた後……悲しくて、恥ずかしくて、つらくて、苦しくて……っ」



彼女の言葉を聞きながら、俺はまたうつむく。

森下さんが、すうっと息を吸った。
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