苦恋症候群
「……でもね、ほんとは……っきみが姉である自分を拒否してくれたことに、ホッとして! そんなきみに、惚れ直したの!」

「っえ」

「きみは、雪妃さんを……それまで以上の泥沼の中に落ちる前に、救ったの! そのとき拒否してなかったら、もっと、雪妃さんを苦しめることになってたの!」



どん、と森下さんの小さなこぶしが、俺の胸を叩く。

そんな彼女を、信じられない思いで見下ろした。



「だから、お願いだからもう……そんなふうに、自分を責めないで……っ」

「ッ、」

「自分には、しあわせになる資格がないなんて……そんな悲しいこと、思わないで……っ」



ぽろぽろ、ぽろぽろ。綺麗な涙を流しながら、彼女は俺の胸もとにすがりついた。

そして、身体の横に投げ出していた俺の右手をとって。ぎゅっと両手で握りしめたそれを、そのまま俺の胸に押しつける。
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