苦恋症候群
ぽたりと、俺の膝に彼女の涙が落ちた。



「だって、三木くんは、生きてる……っこんなにあたたかくて、心臓だって、動いてる……!」

「……ッ、」

「一生懸命、生きてるんだから……っ三木くんはしあわせにならなきゃ、だめなの! ぜ、絶対、雪妃さんだってそう思ってるもん……っ」



まるで子どもみたいに泣きじゃくりながら、森下さんが言う。



「しあわせに、ならなきゃ……私が、嫌だよ……!」



──……ああ、どうして。

どうして、このひとは。


胸もとにある彼女の両手を、そっと左の手のひらで包み込む。

それからもう片方の手も重ね、今度は俺がその小さな手にすがりつくように、うずくまった。



「……ぅ……く……っ、」



込み上げてくる嗚咽を、なんとか必死に抑え込む。

森下さんはただ、俺にされるがまま寄り添ってくれていた。



『あはは。遥、寒がりだもんねぇ』



ごめん、雪妃。

ごめん、……ごめん。


今このときだって、雪妃のことが頭に浮かぶのに。

俺はこの手を、離せないんだ。
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