苦恋症候群
ふと目を覚ますと、室内はすでに暗くなっていた。

なんだか頭が重いし、目じりのあたりがヒリヒリしてつっぱる。ああそうか、泣いた後の感覚ってこうだったっけと、まわらない頭でぼんやり思った。


そこでようやくぬくもりに気づいて、俺はベッドに横たわったまま顔を右に向ける。

少し視線を下げると、床に座り込んだまま上半身だけベッドに預けるような格好をした森下さんが、すうすうと寝息をたてていた。

その手はしっかりと、俺の左手を握っている。


……全部、知られてしまった。

俺の罪も、弱さも、全部。


なのに彼女は、背を向けなかった。

『自分を責めないで』と。『しあわせにならなきゃだめだ』と。俺のために、涙を流してくれた。



「……さとり……」



そっと、涙の跡が残る頬に指先で触れる。

初めて呼んだ彼女の名前は、少し掠れて、震えた。
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