苦恋症候群
カタカタと、外からの風で窓が穏やかではない音をたてる。
……やだなあ、春の嵐。帰る頃には少しはマシになっているといいけど。
そんなことを考えながらハンドタオルで手を拭いて、お手洗いから出る。
すると廊下の前方から見知った人物が歩いてくるのが見えて、思わずあっと声を上げた。
「成瀬主任。お疲れさまです」
「あー、さとちゃん。お疲れさま~」
一応勤務時間中だからと、私は名字で彼女を呼ぶ。けれど目の前の美人さんはそんなのお構いなしに、普段の呼び名で応えた。
うーん、さすが自由人な成瀬主任。
つい苦笑を漏らしながら、私は彼女へと近づく。
「成瀬主任、そういえばこないだ言ってた合コンどうなったんですか?」
「あーアレね、全然ダメ。まず全般顔がダメだった」
「手厳しいなあ、ハナさん」
相変わらずあけすけな目の前の人物につられて、私もついついプライベートの口調が出る。
ハナさんはそれをまったく気にも止めず、なぜか赤茶色のおぼんを手にしたままむうっと腕を組んだ。
「だってさあ、あたしまだ32よ? オトコで妥協するには早いっての」
「……ハナさんのそーゆうとこ、ほんと尊敬する」
「なによさとちゃんなんて、あたしより3つも年下のくせにぃ」
わざとらしくくちびるを尖らせ、ハナさんはぐしゃぐしゃと私の髪を乱した。
うわわ、せっかくさっき直したのに!
思いがけない攻撃に「ひゃっ」と情けない声を上げ、へっぴり腰でその手から逃れようとする。
「ちょ、ちょっとハナさん~。私今トイレで整えてきたばっかりなのに!」
「そりゃいいわ。イイオンナに拍車がかかったわよ~」
「もうっ、全然信憑性ないです」
乱れまくりの髪を手ぐしで整えながら、じっとりとした視線を目の前にいる本物の美人に向けた。
ハナさんは見かけによらず子どもっぽいというか、ノリがまるで高校生男子みたいだ。黙っていればセレブっぽい迫力のある美女なのに。