苦恋症候群
「たとえばですけど。真柴課長の奥さんと森下さんが、同時に交通事故にあったとして」

「うん」

「それで同時に、救急車で別々の病院に運ばれたとするじゃないですか」



若干気だるそうに話す、三木くんの低めの声。

それにうなずきながらも、大人しく耳を傾ける。



「それを聞いた真柴課長は、急いで病院に向かうと思うんですけど。世間体やら何やらで、1番に駆けつけるのはやっぱり奥さんのところなんです」

「……うん」

「大人って、いろいろしがらみがあるから。やっぱり不倫相手を優先するって、普通はしないと思うし。だからまあ、森下さんは虚しくて残念で不憫だなあと」



淡々とそう言い切った彼は、いつの間にか短くなってしまっていたタバコをシルバーの携帯灰皿に押しつけた。

……なんか、最後増えてたんだけど。やっぱりこの人、性格問題あるわ。

そんなことを思いながら、私は小さく苦笑する。

うーんと、両手を上に挙げて思いきり伸びをした。
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